出口の見えないトンネル

 妻の この苦しみは あと どれぐらい続くのだろうか。いつまで続くのだろうか。意外と、出口は目の前なのかもしれない。だが、その出口が いつなのかが分からないと、たとえ それが10秒後であったとしても、恐ろしく長く感じるものである。

 必死に陣痛に耐えていただけの妻だったが、このあたりから時折上半身を起こし、いきむようになった。妻の顔全体が今まで以上に苦痛にゆがみ、顔色が みるみる赤くなる。窒息してしまうのではないかと思うぐらいに長い間 息を止め、いきみ続ける。もうすぐ生まれてくる新しい命のために。

 助産師が言う。「頭が少しずつ出てきましたよ」だが、妻は反応が無い。私が繰り返して言う。「頭が少しずつ出てきたって!」すると妻は小さく 頷き、再び いきみ始める。妻が言う。「あっ・・・戻っちゃった・・・」僅かながらでも、妻の中に余裕が出てきたのか。助産師が言うには、出産は3歩進んで2歩下がる、これの繰り返し。ここから しばしの間、妻の いきみが続いた。
 
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