出産を終えて | |
およそ30分の産後処理が終わり、私は分娩室に呼び戻された。妻は落ち着いた様子で横になっていた。助産師が赤ん坊を連れてきてくれた。体重・身長の測定やら、ある程度 体を洗ってもらった後、だろうか。助産師が おもむろに妻の乳房を取り出し、赤ん坊に吸い付かせようとした。その動作が かなり強引に感じられた。生まれて間も無い、まだ首も据わっていない新生児を こんな乱暴に扱ってよいのか!? 良いのだろう。それだけ、新生児が丈夫であるということを助産師は知っての上でのこと、のはずである。 まだ妻は母乳が出るかどうか分からないのだが、まずは赤ん坊に吸わせることにより、母体のスイッチが入るのだという。また、赤ん坊は赤ん坊で、母乳が出ずとも、吸うという行為によって安心感が得られるのだという。母親も 赤ん坊も授乳に関しては初心者。お互い、おっかなびっくりで、ぎこちなかったのだが、とりあえずは形になった。 母親の胎盤という暖かい安全地帯から、(胎盤内よりは)寒くて危険の多い世界に放り出された赤ん坊。身長50cm、重さ3064gという小さな体で、大きな不安を抱えながらも、母親の温もりに守られて安心しきったかの様子だった。しばらくの間、親子3人で この状態が続いた。時間が6時半を過ぎたので、近しい知人達に対する報告eメイル送信を再開。この時間帯であれば、大丈夫であろう。妻と話しながら、予め用意していた報告文章を次々に発信した。 1時間ほどして助産師が戻り、私と赤ん坊は先に部屋に戻るように言われた。私は恐る恐る、赤ん坊が横になっている新生児用ベッドを押しながら部屋に戻った。ふと赤ん坊と目があった。「おじさん、誰?」と言っているような表情だった。部屋に戻ってから暫くの間は赤ん坊と2人っきりだった。この間に泣かれたらどうしようという思いが続き、ほんの数分間が異様に長く感じられた。妻が部屋に戻ってきた時、ホッとした自分が そこにいた。 ほどなくして助産師が部屋に来た。赤ん坊は しばらく看護婦詰所で預かるので、両親は ゆっくり休むようにとのこと。約8時間もの お産に耐えた母体を休めるのは勿論のこと、本来の平日面会時間は14時からとなっているため、父親も一端 撤収して休むように、とのことだった。ここはプロの助言に従うことにした。一緒にいたい気持ちを抑えつつ、赤ん坊を助産師に預け、妻が寝入るのを見届けてから私は一端 帰路についた。 外は これから通勤・通学に向かう人達が多数歩いていた。そうか、今は平日の朝。自分が特別な体験をしたのだが、世間一般では また いつもの1日が始まろうとしているのだ。 家に着き、洗濯機を回してから横になった。昨夜の睡眠時間が1時間だったこともあり、割とすんなりと寝についた。が、洗濯機の稼働時間を考え、1時間半後に起床。洗濯は終わっていたので、3時間の乾燥モード状態にし、私も更に3時間寝た。 |
|
戻る 次へ |
|
8/12 |