出産当日-3

 病院に辿り着いた頃には時計は23時をまわっていた。この時間帯に産婦人科に来た、ということで察してくれたのか、タクシーの運転手が「おめでとうございます」と言ってくれた。失っていた平常心が少しだけ戻ってきたのが分かった。

 人生の大仕事を終えた妻に会えた。今朝も会ったばかりなのに、妙に妻のことが懐かしく感じた。多くは語らずとも、お互いに表情を見ただけで思っていることが充分に伝わった。この時点で先程までのイライラが完全に鎮火。明日は私が妻に初めて会ってから丁度11年の記念日である。

 時同じくして助産師が保育室から生まれて数時間しか経っていない息子を連れてきてくれた。2歳近くになる娘を見慣れている私にとって、息子は とても小さく、すぐに壊れてしまうのではないかという思いが湧いた。こんなに小さい体の中で、命の小宇宙(コスモ)が激しく燃えている。Nice to see you Haruto. I'm your Vater. 娘に対してと同様、私はこの子と接する時は全て英語。我が子達のため、自分に課した使命である。その息子を抱っこした私、さっきまで あんなにイライラしていた自分がバカらしく感じた。

 子連れ入院ということで、娘はベッドでグッスリ寝ていた。自分の腕で抱っこしている息子も、ベッドで寝ている娘も、両方とも妻と私の子供。妙な感じだった。ゆっくりする間もなく、0:37の最終電車で帰路についた。誰もいない自宅、やっぱりイヤなものである。

 支えてくれたみんなに感謝である。そして仕事を抜けられなかったことについては・・・誰を恨めばイイんだかρ(-ω-)。
 
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